股関節脱臼 (発育性股関節形成不全 DDH)

先天性股関節脱臼とは股関節を形成する骨盤の部分より大腿骨頭が脱臼している状態を言います。骨頭が本来の位置よりもずれがある場合(脱臼~亜脱臼)や骨頭の位置はよいが、臼蓋の形態に異常がある(臼蓋形成不全)もこれに含め、総称として股関節脱臼(DDH)と呼んでいます。
また、生下時よりも出生後の発育過程で脱臼や亜脱臼に至る例が多く、近年では発育に伴い明確となる意味より、発育性股関節形成不全(Developmental dysplasia of the hip, DDH)と呼ばれるようになりました。

A. 診断
1. 診断のポイント:見た目でわかる場合もあるがよく見ないとわからない場合もある
・実際の診察上で、股関節が開きにくい(開排制限)、見た目で脚の長さに差がある(脚長不等)、股関節にゴクっといったような音がする(クリック徴候)、大腿の皮膚の皺に非対称がある、などの場合に脱臼を疑います。
・男児に比べて女児、骨盤位分娩、家族歴を有する、向き癖・斜頸などがある場合にもリスクがあります。なお、向き癖の反対側(右に向き癖の場合は左側の脱臼を伴いやすい)に注意が必要です。
・外観を見る視診や診察での触診が極めて重要ですが、診断の確定は超音波断層像やX線撮影によりなされます。


左股関節脱臼 (5か月 女児 完全脱臼)
左股関節は臼蓋形成不全(骨盤の屋根の発育不良)を伴い、外側への転位(横ずれ)が著明です (→) 。


2. 重症度の評価:脱臼はピンキリである
・一般には臨床所見と超音波断層像、X線像で臼蓋形成不全、亜脱臼、完全脱臼に分類されます。
・著者は超音波断層像、およびMRI像により臼蓋形成不全~亜脱臼(Type A1, A2)、脱臼(B)、高度脱臼(C)に分類しています(図2)。



治療方針
・3か月未満の開排制限、向き癖の強い例では抱き方やオムツのあて方を指導する。
・リーメンビューゲル(Rb)を一律に装着する考えもあるが、概ね整復率は75~80%で、20~25%は整復されず、整復されないまま装着を続けると重症化(Type B→C)することが多い。また、整復される症例のうち10~15%に骨頭壊死を生じる報告があるため、一律に試しに着ける=スクリーニング的なRb装着は行っていません。
・特に開排制限が強い、高度な脱臼に対するRb装着は壊死の危険性が高く、また、整復される可能性が低いため適応に乏しいと考えています。
・臼蓋形成不全、もしくは軽度の亜脱臼(A1)など脚を広げるだけで無理なく骨頭が正しい位置にあり、開排制限が改善していればRb装着でよいと思います。
・開排位で骨頭が良好な位置=求心位とならない亜脱臼(A2)、骨頭と臼蓋との間に関節軟骨による接触点のある完全脱臼(B)、接触点の無い高度脱臼(C)に対しては、開排位持続牽引法(FACT治療)による緩徐な整復を行うようにしています。
・FACT治療により脱臼が整復されれば、脱臼の重症度と月(年)齢に応じて、Rbやギプスにより最低3か月以上開排位で固定して関節の安定化を図ります。



 FACT  
 入院中は4段階に分かれ、牽引の方法や脚の開く角度などを調整して無理のない整復を得るようにします。
 英語で申し訳ありませんが、US=超音波断層像 AVN=壊死 を意味しています。
 Distractionは牽引 Centeringは骨頭を臼蓋の正面へ向けること Reductionは整復を意味し、Repositionは本来の位置の獲得のことです。
 
 コンセプト:超音波で骨頭の位置を可視化しながら確実に整復を行い、最大の合併症である骨頭壊死を避けるのが目的です。


・4歳未満は保存療法をまず試み、整復されない症例には徒手整復(麻酔をかけて徒手的に整復する)や観血的整復術(手術により整復する)を行います。ただし、すでに観血的整復術を受けていて再脱臼した患者さんは保存療法がうまくいかない場合が多く、再度手術で整復することになります。
・4歳以上は通常観血的整復術を選択します。その際必要に応じて、同時に骨盤の手術(Salter手術)や大腿骨(減捻内反)の骨切りを併用して安定した整復を得るようにします。



 2歳4か月  右股関節脱臼判明  FACT治療開始                      5歳  壊死などなし  臼蓋の発育遅延あり  



  5歳 右臼蓋形成不全に対しソルター手術                     12歳 右股関節は左と同等に発育   サッカー部所属

・思春期以降、10代での明瞭な臼蓋形成不全、亜脱臼では、手術により自分の骨で痛みのない関節にすることができる場合も少なくありません。
ソルター手術での対応はだいたい8歳までで、それ以降は成人になって人工関節で対処するという考えもあります。しかしこれにはあまり賛成できません。うまく治るとまったく普通に運動もできるため、当科では積極的に骨盤の手術(トリプルオステオトミー)を行って治療しています。

 二見 徹  思春期以降の遺残性亜脱臼に対する手術 triple osteotomy - 先天性股関節脱臼の診断と治療   
   尾﨑敏文 赤澤啓史編 メジカルビュー社 東京 2014 p142-48.


専門医へのコンサルト
・抱き方やオムツのあて方で改善しない開排制限、および脱臼が疑われる症例は、生後4, 5か月までには専門医へ紹介する方が望ましく、初回治療は6か月までに開始したいところです。

患者説明のポイント
・初期は予防の観点からも抱き方(コアラ抱っこ)やオムツのあて方が重要です。赤ちゃんが下肢・股関節を自由に動かせる環境を考え、オムツを厚くして股関節を無理に広げるのは避けるべきです(骨頭に無理な力がかかるからです)。
・上記の意味で、スリングの使用や、おひな巻など、赤ちゃんを着衣や布でくるむのは避けた方が賢明です。



 かつてわが国では脱臼の関して熱心に予防運動が行われ(1970年代後半~)、脱臼の患者さんが劇的に減少しました。
 ①おむつの変更 ②抱き方の指導 これらが予防運動に大きく貢献しました。
 現在、ややこの点がおろそかになりつつあり、脱臼の診断も遅れる傾向にあります。
 また、この傾向は欧米でも共通した傾向となっており、専門医の間で危機感が持たれ、問題視されています。

 
・整復治療後も定期的な経過観察が必要で、就学前に臼蓋形成不全の補正手術(Salter手術)を要することがあります。治療の開始が遅れたり、重症な脱臼ではその確率がやや高くなります。
・反対側の臼蓋も良好に発育しない場合があります。これには家族歴などがかなり関与している場合も少なくありません。また、日本人は比較的臼蓋の発育が不十分に終わる人が欧米に比較して多いようです。

エビデンス 
整形外科医のための乳児股関節二次検診の手引  (公開資料参照:http://www.jpoa.org/)


文献 
・ Suzuki S. Ultrasound and the Pavlik harness in CDH. J Bone Joint Surg Br 1993 ; 75 : 483-7.
・ 鈴木茂夫. 先天性股関節脱臼の病理・診断・治療の現状. 日整会誌 1998;72 : 191-201.
・ 尾木祐子 二見 徹  牽引による整復 - 開排位持続牽引整復法 - 先天性股関節脱臼の診断と治療   
  尾﨑敏文 赤澤啓史編 メジカルビュー社 東京 2014 p64-71.