大腿骨頭すべり症

10代前半で跛行を呈する患者では本症を常に念頭に置かないと、診断がしばしば遅れる。治療には病態と重症度の把握が重要で、個別の対応が求められる。ほとんどの症例で手術治療を要し、すべりの程度と骨頭の安定性により治療選択がなされる。また、骨頭壊死などの重篤な合併症を生じることがあるため、十分な配慮と対応が必要である。

1 病態・疫学・原因
大腿骨頭すべり症(Slipped capital femoral epiphysis; SCFE)は大腿骨近位骨端線の部位で骨端が主に後方に転位する疾患である。主に10代前半の思春期に生じるが、かつて本邦では比較的稀な疾患であった。しかし、体型の変化やスポーツ活動の活発化などに伴い罹患率は顕著に増加している。野口らによれば罹患の頻度は男子2.2/10万人、女子0.76/10万人、計1.5/10万人とされ、男女比は3:1であった1)。これは1976年の二ノ宮らの報告と比較して男子で5倍、女子で10倍の増加を示している2)。発症年齢は男子で平均11歳10か月、女子は平均11歳5か月であり、二ノ宮らの報告(男子平均13歳8か月 女子平均12歳3か月)より顕著に低年齢化している2)。Murrayらの英国の報告によれば20年間で罹患率は2.5倍(3.78/10万→9.66/10万人)、発症年齢も低年齢化(男子13.4歳→12.6歳 女子12.2歳→11.6歳)しており、同様な傾向を認めている3)。
本症の発症原因としては以下の3点が主に考えられている。
1) 股関節の構造的な問題:大腿骨頸部の前捻角が減少し、深い臼蓋のために骨端線への剪断力が増大するため。
2) 内分泌学的異常:甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症、性ホルモン異常、腎性骨異栄養症、成長ホルモン投与などに伴う内分泌異常により生じる大腿骨近位骨端線の脆弱性による4)。ダウン症やKleinfelter症候群、Stickler症候群、放射線治療の既往例でも生じやすく、器質的な異常を背景としてすべりが生じる。
3) 遺伝:多世代にわたる家族内発症例が報告されている5)。本邦でも兄弟例の報告もあり、遺伝の関与が指摘されている。
また、発症時期は我が国では春~夏に多く、他国の報告でも季節間での発生率の差(seasonal variation)が報告されている。いずれもスポーツや運動が盛んに行われる時期に多く、スポーツ外傷との関連が指摘されている6)。以上より、スポーツや過剰な体重による物理的外力が骨端線での解剖学的破綻をきたすことが本症の主な発症機序と考えられ、これに骨端線に器質的な脆弱性を基盤とする例(内分泌異常)が含まれる。また、発症年齢の低下の傾向については肥満の増加が関連していると考えられている3)。
なお、両側罹患率は約20~25%と言われており、反対側の罹患は通常2年以内と考えられ(両側罹患例のうち反対側が続いて罹患する場合、1年6か月以内に発症する割合が88%、2年以内は93%に及ぶ)7)、骨年齢との関連が指摘されている8)。

2 症状と診断
本疾患は診断が確定するまでに期間を要している場合が少なくない。原因として、疼痛を訴える部位が必ずしも股関節であるとは限らず、膝や大腿部を痛がることが多い。また、罹患側は外旋位を呈する場合が多く、歩行時に足部や下腿にストレスがかかるため膝から遠位に疼痛を訴えることもある。したがって、10代前半で下肢痛をきたし、外旋歩行を伴う跛行を呈する場合には本疾患をまず念頭にいれて診察することが望ましい。
疼痛の原因が股関節に起因するかを調べるにはまず股関節の可動域制限がないかを診ることが重要で、特に内旋の可動域制限がないかを確認する。本症では股関節を屈曲するにつれて外旋位となる場合がある(Drehmann徴候陽性:図1)。この徴候が確認されれば本疾患を疑う一つの根拠となる。



図1 屈曲につれて外転すればDrehmann徴候陽性

画像診断 単純X線股関節前後像のみで本症を診断する場合、辷りの程度が少ない例ではなかなか難しい。Trethowanサイン(図2) は前後像による本症の存在を示唆する所見であるが、必ずしもこのサインを認めるわけではない。一方、ほとんどの症例で骨端が後方に辷るため、側面像によってはじめてすべりが明瞭となり確定診断に至る場合が多い。軽度の辷りで診断に迷う時はMRI撮影により骨端線の幅の拡大などの像があれば診断につながる。また、単純X線像で明確な所見を認めない段階でもすべりの前駆症状である場合があり(preslip)、MRIにより骨端線の異常が描出される場合がある。


     正常                  すべり症
図 2 Trethowanサイン

3 病型分類
発症様式
発症経過により、症状発現が3週以内の急性型、3週以上の経過で徐々に生じる場合は慢性型となる。急性型ではX線像において骨端と骨幹端とに段差を生じている場合が多く、慢性型では両者が連続した輪郭を有していることが多い。両者の中間型は、acute on chronic型と呼ばれ、症状の出現は3週間以上前であるが、急性増悪をきたしX線像が急性型と同様な所見を呈する(図3)。



図 3 ↓は急激なすべりによる段差を示す。

重症度と骨端の安定性による分類
1)重症度
辷りの程度はX線側面像で後方傾斜角(:posterior tilt angle PTA)により分類する (図 3 α)。30度以下:軽度、30~60度:中等度、60度以上:高度辷り症とする。すべりの角度が大きい程重症であり、一般に50~60度を超える例では骨切り手術が必要となる。それ以下ではすべりを戻さず、スクリューなどで固定する(in situ fixation)ことが一般的である(図4)。



図4 中空スクリューによる整復なしの固定

2) 安定性
かつて本疾患の治療法は辷りの程度により選択されていたが、最近ではすべりの安定性(患側で荷重可能か不可能か)が重要なポイントとなっている9)。荷重可能である安定型は合併症が少なく比較的問題が少ないことが多いが、荷重不能な不安定型では骨頭壊死などの重篤な合併症のリスクが高い9)。

4 治療
本疾患の特徴として、ほとんどの症例で手術治療を要すること、すべりの程度や安定性により適切な治療選択が必要であることなどが挙げられる。また、経過中に骨頭壊死などの重篤な合併症や後遺障害をきたすこともあるため、治療の時期や後療法を含めて細かな配慮を要する。
治療はPTAと不安定性を基に決定する。特に不安定性が存在する場合、骨頭壊死の発生率が高くなるため治療選択に細心の配慮が必要となるため、安定性に基づき治療方法が選択されることが多い。
A.安定型
慢性型辷り症の場合は骨端が緩徐に転位し、多くは歩行や荷重が可能である(安定型)。安定型では壊死の回避上整復は禁忌である。治療は通常1本の中空スクリュー(cannulated screw)により整復操作を行わない骨端固定術(pinning in situ)基本とする。50~60度以上の高度辷り症でスクリュー固定が困難である場合には、大腿骨骨切り術(屈曲または3次元骨切り、骨頭回転骨切り)を必要に応じて選択する。
B.不安定型
荷重不能な不安定型においてもin situ fixationが壊死の回避上安全である。一般に1~2本の中空スクリュー固定が骨端の安定のため推奨される。ただし、骨端部分が極めて不安定でかつ転位が強い場合は、骨端線損傷や頸部骨折(Delbet-Colonna type 1)などの外傷の病態に近く、整復せざるを得ない例もある。この場合は速やかに愛護的な操作により、解剖学的整復にこだわらない控えめな整復を行う。また、整復後は関節切開等による関節内圧の減圧を行い、タンポナーデによる壊死発生の予防を図る10)。骨端固定後に遺残する変形が存在する場合には、必要に応じて二期的に大腿骨骨切り術で対処する。

5 合併症と予後
重要な合併症としては以下が挙げられる。
1) 骨頭壊死 最も重篤な合併症であり、特に荷重歩行が不能な不安定型ではリスクが少なからず存在する(20~40%)。X線像で明らかになるまでには6か月以上を要することもあり、リスクの高い症例では定期的なMRIの撮像が有用である。したがって、ハイリスクな患者では壊死の有無が明らかになるまで患肢への荷重をコントロールすることが望ましい。
2) FAI 手術治療後に大腿骨頭の前方部分の形状が良好に修復(リモデリング)されず、股関節の屈曲時に疼痛や可動域制限を生じることがある。これはFAI (femoroacetabular impingement)と呼ばれ、大腿骨頸部と臼蓋縁が衝突する現象である(図 5) 11)。大腿骨側の骨性隆起が臼蓋の軟骨面との衝突を繰り返すと2次性の変形性関節症を招来するため、病態や治療に関して近年注目されている。なお、すべり症の患者ではDrehmannサインを呈することがあるが、これはFAIが存在することを意味している。



図 5 FAI

3) その他 治療後の脚長不等、外旋歩行は比較的よくみられるが、追加治療を要することは少ない。稀な合併症としては関節軟骨が菲薄化し、可動域制限が強く残る軟骨融解症がある。
骨頭壊死をきたすことなく十分に骨頭~頸部のリモデリングが得られたすべり症例では長期的に良好な経過が望めることが多い12)。しかし、治療過程で骨頭壊死を生じると変形性股関節症を招きやすく、荷重面を変更する骨切りが奏功しない場合、予後は厳しいものとなる。FAIについても顕著な例では関節症変化をきたすことが多いため、近年では積極的に股関節鏡などを用いた手術療法を行う施設が増えている。一方、軟骨融解症をきたすと免荷や可動域訓練を含めた長期のリハビリテーションを要するが、2次性の関節症変化や機能障害を生じる症例もあり、自然緩解するものもあれば予後不良となる場合もある13)。

6 診断のポイントと注意点
8歳以降10代前半で下肢痛を訴え、跛行を呈する場合には本疾患の可能性を忘れてはならない。症状が軽い場合もあるため、鑑別診断の候補として対応しないと見逃がす可能性が高くなる。特に肥満があり、外旋歩行(外股)であれば注意して本疾患を鑑別するようにする。また、疼痛の訴えが膝や大腿部、下腿である場合もあるため、必ず股関節の可動域、特に屈曲と内旋の可動域制限がないかを確認することが重要である。X線前後像のみでは診断が難しいため、X線像は必ず股関節2方向で撮影する。なお、本疾患はほとんどの症例で手術治療を要するため、早目の処置が求められる。特に荷重して歩行ができない不安定型すべり症の場合は重篤な合併症である壊死のリスクが高く、迅速な対応が必要となる。

文献
1 ) Noguchi Y, Sakamaki T : Epidemiology and demographics of slipped capital femoral epiphysis in Japan : a multicenter study by the Japanese Pediatric Orthopaedic Association. J Orthop Sci 7: 610-617, 2002
2) 二ノ宮節夫, 長坂与一, 小出清一 : 大腿骨骨端線離開 東日本地区153病院で調査した症例を加えて. 日整会誌 48:727 , 1974
3) Murray AW, Wilson NI. : Changing incidence of slipped capital femoral epiphysis: a relationship with obesity? J Bone Joint Surg Br. 90(1):92-4, 2008
4) Loder RT, Wittenberg B, DeSilva G : Slipped capital femoral epiphysis associated endocrine disorders. J Pediatr Orthop. 15:349-356, 1995
5) Moreira JF. : A report of 4cases occurring in one family. International Orthop. 22:93-196, 1998
6) Loder RT, Aronson DD, Bollinger RO. : Seasonal variation of slipped capital femoral epiphysis. J Bone Joint Surg Am. 72(3):378-81, 1990
7) Hurley JM, Betz RR, Loder RT, et al. : Slipped capital femoral epiphysis. The prevalence of late contralateral slip. J Bone Joint Surg Am. 78(2):226-30, 1996
8) Loder RT, Farley FA, Herzenberg JE, et al. : Narrow window of bone age in children with slipped capital femoral epiphyses. J Pediatr Orthop. 13(3):290-3, 1993
9) Loder R, Richards BS, Shapiro PS et al. Acute slipped capital femoral epiphysis: the importance of physeal stability. J Bone Joint Surg Am, 75:1134-1140, 1993
10) Parsch K, Weller S, Parsch D. : Open reduction and smooth Kirschner wire fixation for unstable slipped capital femoral epiphysis. J Pediatr Orthop 29: 1-8, 2009
11) Ganz R et al. : Femoroacetabular impingement: a cause for osteoarthritis of the hip. Clin Orthop Relat Res, 417:112-120, 2003
12) O'Brien ET, Fahey JJ. : Remodeling of the femoral neck after in situ ponning for slipped capital femoral epiphysis. J Bone Joint Surg. 59-A: 62-68, 1977
13) Tudisco C, Caterini R, Farsetti P. : Chondrolysis of the hip complicating slipped capital femoral epiphysis: long-term follow-up of nine patients. J Pediatr Orthop B. 8(2):107-11, 1999